黒い塊

さてさて、晩ご飯でも作ろうか。

冷蔵庫を開けストックを確認していると、豆腐の上に何やら黒い塊が乗っている。

真っ黒の丸い塊。

「何じゃこりゃ?」

恐る恐る触ってみた。

プラスチック製である。

バレンタインが近いせいもあり、一瞬チョコレートを連想したが・・・

「いや待てよ、買ってねーし!」

頭をフル回転。そして、よみがえる記憶。

そう!この黒い塊は、昨年しかけておいたコンバットである。ゴキブリの巣ごと駆除するというあのコンバット。

なぜ冷蔵庫に???

ジィの仕業ですな・・・

血痕

休日の朝、掃除機をかけていると床に何やら

けけけ・・血痕がっ。

またもや髭剃りでヘマでもしたか?それとも靴擦れ?

私「何これ怪我したの?」

ジィ「昨日、転んだんだろうな。」

ふとジィの手もとに目をやると、ざっくりと切れている。

「ひぇ~!」とあとずさる私。

「今すぐ病院行くぞ!」とジィを急きたて近くの病院へ。

受付の女性にどうして怪我したのか聞かれると、「転んだんじゃないか?」とシドロモドロに答えるジィ。

本人曰くあまり憶えていないらしい。

しばらくして今度は看護師がやって来て、どういう経緯でこうなったのかと更に詳しく聞かれる。

面倒くさそうに的を得ない答えを繰り返していたジィだったが

「転んだからか?」と逆に看護師に質問しだす始末。

そこでようやく看護師はジィさんがボケてることを察したようだ。

フィジカルアセスメント終了。

そしてジィが呼ばれ診察室へ。

開口一番「どうしてそうなっちゃったの?」とT医師。

本日3度目の同じ質問にジィがついにぶち切れた。

「んだからさっきから分からねーって何回も言ってんだょ!」

咄嗟にジィの頭をひっぱたきそうになったがグッと堪え、ただただT医師にひたすら頭を下げる私。

ボケジジィに悪態をつかれながらも「そうか、分かんないか~」と上手になだめながら手際よく傷口を縫合するT医師。

お医者さんって、やっぱり凄いです。

最近のジィは突然怒り出したり辻褄の合わない話しを繰り返したり、手に負えませぬ。

拷問

やっすい居酒屋で、どーでもいい話しをしながらわいわい楽しく過ごす時間が大好きだ。

ついたあだ名はオッサン・・・

そんな時代もあったが、ここ1年はコロナ禍ということもあって自粛モード。寂しい限りである。

半年前にキャンセルした飲み会をこの年末に予定していたけどますます感染者は増えるばかり。今回もキャンセルするつもりでいたのが、前回のこともありなんとなく断りずらくて結局行くことに・・・。

ならば投薬(免疫を下げてしまう薬)を辞めて、感染リスクを少しでも抑えようと試みた。

そしてまもなく悲劇は起こる。

朝目覚めると、激痛で全く起き上がれないのである。ほんの少しの体重をかけることさえ出来ない。激痛。

まるで拷問。

足だけでなく肘や手首も痛いため杖で凌げる状況では無い。あわてて投薬するもすぐに効くはずもなく・・・さてどうしよぅ。

脇の下ならなんとか耐えられそうかな?と、ネットで松葉杖を注文することにした。超軽量で丈夫な松葉杖を発見!それにしても松葉杖のくせに結構な値段である。背に腹はかえられないので購入を決意した。聞いたこともない販売業者だったので「代引き注文」を選択⇒購入手続き完了!まもなく確認メールがきたのだが、注文手続きを終えたにもかかわらず、やたらとクレジットカードの情報入力を促しやがる。

あやしすぎる。そして販売業者の住所をグーグルマップで追ってみた。

廃屋・・・

ということで注文キャンセル。

そうこうしているうちに徐々に痛みが治まってきたので松葉杖の購入は見送ることにした。

で!肝心の飲み会はというと、感染が怖くて公共交通機関を避けて車で現地へ。当然、一滴も飲めやしない。 

酒飲みが居酒屋でジュースをひたすら飲みまくる。

まるで拷問。

コロナに始まりコロナに終わった2020年。

2021年、コロナが終息しますように。ワイワイガヤガヤ出来ますように。

命に関わるような病気では無いのだが、皮膚病からくる付着部炎により関節を冒されるというチョットやっかいな持病を持つ。

若い頃から度重なる頸椎の脱臼には苦労したものだ(遠い目)。

随分前に、壊れた関節に骨を移植して固定してしまったので、今は外れることは無いのだが、慢性的な痛みだけは未だに消えませぬ。

一度炎症が暴走してしまうと激痛に襲われ関節が壊れるまであっという間なので、とにかく過度に負担をかけないことにつきるのだが、生きていると無理しない訳にもいかず、数年前までは何をするにも戦々恐々であった。が、ここ数年は投薬&注射のおかげで普通に暮らせている。

治療する ⇒ 調子が良くなる ⇒ 治ったかも? ⇒ 勝手に投薬を辞める ⇒ 激痛がぶり返す ⇒ 反省する

というパターンを何度か繰り返している。

晩超皿屋敷

晩ご飯、何にしよ~。

台所に立ち、ふと水切りラックに目をやると皿が無いことに気付いた。

食器棚を探すが何処にも見当たらない。皿一式が無いのだ!

さては割ったな?

そして、ジィへの事情聴取が始まる。

私:「お皿割った?」

ジィ:「割ってねーぞ!」

私:「お皿が全部無いんだけど!」

ジィ:「俺はやってない!」※少々キレ気味。

まるでシラをきる犯人だ。

あきらめて夕食の準備に取りかかろうと冷蔵庫を開けたその時、なななんと!キレイにお皿がしまわれているではないか!冷蔵庫の中段が食器棚になっている。にしても、よくもキレイに並べたもんだな。

なんつって、感心している場合ではない。片付けねば(ため息)。

いちま~い・・・ にま~い・・・

晩、超皿屋敷。

ミステリー

■ジィが出来ないこと

・窓の開け閉めができない。

・テレビ以外の電化製品が使えない。

・ゴミの管理。※押し入れに投げ入れる

・洗濯物の管理。※押し入れに投げ入れる

・上着が上手く着れない。

・・・などなど。

出来ないことが多くなった反面、買い物も出来るし、時々迷うけど散歩も出来る。しかも計算なんて私よりも早いときたもんだ。

不思議で仕方がない。

事情聴取

仕事から帰って夕食の準備をしようと冷蔵庫を開けたその時、異変に気がついた。

ぬ、ぬるい!

冷蔵庫なのになんで?ぬるいんですけど!

慌てて冷凍庫も開けてみたところ

なんじゃあこりゃあ!

アイスと氷は原型をとどめておらずドロッドロ。

ふと見るとコンセントが抜けている。テーブルタップごと抜けている。

こんなことをするのはヤツしか居ない。

そしてジィを事情聴取。

追求した結果、どうやら昼ご飯を温めようと電子レンジを使ったものの切り方が分からなくなり目についたテーブルタップを片っ端からひっこ抜いたとのこと。

な・・・なるほど。なんて感心している場合ではない。大掃除だ。

当たり前の、ちょっとしたことが分からないんだろうなぁ。

なんとも普通の人には理解しがたいけど、それがボケというものだろうから。

仕方なし!

ジィを引き取ってから1年、驚異の回復ぶりを見せる。なんと自分の名前をなんとなく書けるようになってきたのだ。

どこか必ず間違えてはいるが・・・。

加えて、とにかくしゃべる。しゃべってしゃべってしゃべりまくる。数パターンの昔話しをリピートするので、こちらも延々と適当なあいづちを打ちまくることになる。全く話せなかった頃と比べたら見違えるほどの回復ぶりだ。認知症ではありません!と言いきったM医師の診断もまんざらハズレでは無かったのかもしれない?と思ったが、いやでもやはり以前の父とは違うのである。

その日もいつもと同じ昔話しが始まった。それきた!と適当な相づちで右から左へ流していると、めずらしく新しいエピソードを話し始めた。

ジィ「昔、バァと東京に映画を観に行った帰りにからまれてな、17人に囲まれたんだ。・・・・・・略・・・・・・ で、全員やっつけてやったんだ。」

私「ぇぇぇええ?」

そんなことがあったのか!と驚いた私は、その晩、さっそくバァに聞いてみた。

バァ「そんなことある訳ないでしょ。ジィと映画なんて観に行ったこと一度もないよ。ボケてんだから信用しないの!」

私:絶句

幻だそうです。

アタシんちの家族

昔このジィは、いわゆる「教官」もどきの職についていたせいか、それはそれは女性によくモテた。そして不倫騒動をきっかけに、ある日突然、なななんと家族を捨てて家を出て行ってしまうのである。まだ子供だった私は父親が家族を捨てたことに酷く傷つき悲しんだが、そんな父不在の環境にもやっと慣れてきた頃、今度は母親が義理父候補なるインテリ君を連れて来たのだ。が、このインテリ君、私と全く反りが合わず、反抗期の私をボッコボコに殴り蹴り倒すという事件を起こす。それをきっかけに一家離散。以来、お互い干渉することも無く、それぞれ好き勝手に生きてきた。良く言えば自由なのだが、ちょっと変わった家族である。

あれから数十年、相変わらず勝手気ままな一人暮らしを続けていた。ただ自分も親も歳だけは確実にとっているし衰えもきている。いつかは面倒見なきゃだな・・・と思うようになっていたそんな矢先、その日は突然やってきた。

昔から問題大有りの糞ジジィだけに、再び一緒に暮らす状況に戸惑いもある。が、それでも親は親。なんとかなるのだろう、きっと。

悪戦苦闘

そんなこんなで、認知機能に全く問題ない(?)ジィを引き取るも悪戦苦闘の日々は続く。

例えば、散歩の帰りが遅い時は道に迷っているのでスマホのGPSを頼りに車で探しに行くのだ。やっとの思いで見つけ出して自宅に連れ帰る。車からジィを降ろして安堵したのも束の間、迷うことなく隣家へと歩き出すジィ。そして燐家の玄関先でドアを開けろと騒ぎ出す。そんな有様なのだ。

家事についてもとんちんかんで、洗濯用洗剤の代わりに漂白剤を洗濯機に入れてしまう。むろん洗濯物すべてシボリ染めか?と見紛う惨状。

こんなんで何年もつだろう?と不安になることしばしばなのである。

親の介護問題、なんとなく覚悟はしていたつもりではあったけど、いざその時になると介護に対する知識もなく何の準備も出来ていないことに愕然とし、己の不甲斐なさに情けなくなる。

焦らず、少しずつ。